『メダリスト』を初めて読んだとき、
「なんて熱くて、なんて繊細な作品なんだろう」と心が震えた。
フィギュアスケート。
氷の上でくるくる回って、美しい衣装をまとって、
きらきらとした音楽に合わせて踊る、華やかな世界。
だけどこの作品は、その表舞台の裏側にある、努力と葛藤と孤独を真正面から描いている。
悩み・葛藤・焦燥、いろいろな感情と戦う少女
主人公は、いのりという少女。
年齢からすると遅すぎるタイミングでフィギュアスケートを始めることになる彼女は、
心の中に「やってみたい」という情熱を秘めている。
けれどそれを素直に表に出せない。
周りの目や、自分の年齢、立場や環境を気にしてしまう。
その姿に、私は思わず息をのんだ。
立場は全然違えど、自分にもこんな時期があったなって、ちょっと思ってしまう。
主人公を導くコーチの存在
いのりを導くのは、元スケーターの司コーチ。
夢破れた過去を持ちながら、彼女の熱に心を動かされ、
コーチとして再びリンクに戻る決意をする。
ふたりの関係性はとても不器用で、でもまっすぐ。
支えるというよりも、一緒に転びながら進んでいくパートナーのような関係だ。
この作品のすごいところは、夢を追うことの「美しさ」だけじゃなく、
その裏にある「泥くささ」「歯ぎしり」「涙」をちゃんと描いているところ。
そして、それでも「やりたい」と思える人の強さを、真正面から肯定してくれる。
いのりは、決して特別な才能のある主人公じゃない。
苦しんで、つまずいて、何度も自分を見失いそうになる。
けれど、司コーチと出会ってから、彼女の中で少しずつ「何か」が変わっていく。
その「何か」は、誰かに褒められたから芽生えるんじゃなくて、
自分自身と、ちゃんと向き合ったときにしか生まれないもの。
こんなに小さないのりちゃんがちゃんと向き合って頑張っているんだ!と
私も頑張ろう!と、すごく救われた気がした。
静かな炎を感じる作品
スポーツものって、すごく爽快だったり、勝敗で感動させたりすることが多いけど、
『メダリスト』はもっと深くて静かだ。
氷の上での演技の描写も素晴らしくて、動きが伝わってくるようなコマ運び。
音のない紙の上に、「緊張感」や「空気」がちゃんと描かれている。
そして何より、「表現すること」の難しさと、喜び。
これってフィギュアに限らず、何かを本気でやったことのある人なら、
誰でもきっと共感できるんじゃないかなと思う。
『メダリスト』は、夢を追う少女の物語だけど、
それを通して私たち読者にも問いかけてくる。
「あなたは、自分の気持ちに素直に生きてる?」って。
子どもだから、じゃなくて。
大人だから、でもなくて。
“やってみたい”って思った気持ちを、ちゃんと信じられるかどうか。
その問いは、思った以上に重くて、でもあたたかかった。
最後のページを閉じるたび、私はすこし背筋をのばす。
今日も頑張ろう、って思える。
そう思わせてくれる漫画って、やっぱりすごいよね。
メダリスト(1) (アフタヌーンコミックス) Kindle版
あわせて読みたい
👧 『その着せ替え人形は恋をする』レビュー
→ “好き”という気持ちと向き合う姿勢がリンク
🧑🎓 『スキップとローファー』レビュー
→ 丁寧な心の描写、焦らない成長が共通点
✏️ 『かくかくしかじか』レビュー
→ “表現に向き合う”という根源的なテーマで通じるものがある
コメント